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拍手ss(ギルッツ)

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**001:記憶喪失兄さん**



 「あなた、何をしてるんですか」 
 
 
 
ローデリヒが芝生の敷き詰められた庭に机を出して何やら薬の調合をしているギルベルトに声をかけた。様々な薬草や科学物質をすりつぶしては混ぜ、黒い丸薬を作っているようだ。 
 
「体調悪いなら寝てなさいよ」 
「ん~、そんなんじゃねぇから安心しろって」 
 
心配そうな瞳のエリザベータにケセセと笑うと、できあがった丸薬をつまみ上げ唇を吊り上げる。 
 
「完成だ」 
「何が完成したのですか?」 
「ふははは、」 
 
楽しそうに、しかし赤い瞳は澱みくすんだ色しか映さない。希望ではない、絶望にゆがむ赤い瞳。 
覗きこんだローデリヒは長年の勘で不気味なギルベルトの笑顔に固まった。 
 
「まさか、それ…」 
「人格を書き換える薬。リセットして違う生き方ができる」 
「あなた、何をするつもりですか!?」 
 
その言葉にローデリヒはギルベルトの胸倉を握りしめる。怒りのショパンを奏でるように激しい感情を露わにして。 
 
「プロイセンをやめる。タダの東ドイツになる」 
「向こうで待ってるルートヴィッヒには何て言うんですか!!」 
 
宥めるようにしかしヒステリックにまくしたてるローデリヒにギルベルトは苦しそうで悲しそうで今にも泣きそうな笑顔を見せて告げた。 
 
「あいつにいつあえんだよ。いつの間にか後数年で40年さ。あいつはフランシスと仲良くなってるし、俺がいつあいつと再会できるかも解らねえ。俺が置いてかれるみたいで苦しいんだ」 
「……だからって記憶ごとなんて、お馬鹿さんが!!」 
「ごめん。馬鹿なんだ。」 
 
見つめたローデリヒの方が泣きそうだった。 
ずっと一緒だった。自分の半身を失い生きながらえるのは苦痛だった。 
逢えもしない人に操を立て続けるのも身を切るような寂しさで。 
 
「なあ、ローデ。はじめからなかったら、苦しくも無いだろ」 
 
ガリ、丸薬をギルベルトがのみこんだ。 
ちからがぬけて床に倒れこむ。 
 
「ギルベルト!!」 
 
エリザベータと二人で担ぎ上げて寝室に横たえる。 
つぎに、そのルビーの瞳の開くとき「失敗だ」って笑ってくれればいいのに。そう思った。 
 
何度も何度も。 
 
 
 
 
「お前らナニしてんの?」 
 
「プロイセン!!」 
「は?誰それ」 
「・・・・ちょっと、あんた何言ってるの?」 
 
 
 
ギルベルトの赤い瞳はすぐに開いた。 
今までと変わらない紅玉の瞳。 
 
それなのに。 
 
 
「あなた、自分が誰だかわかりますか?」 
「あたりまえだろ。自分自身忘れる馬鹿なんているわけねーだろ」 
 
 
けせせ、と高らかに笑った男の口から漏れたのは 
 
 
 
 
 
 
「ギルベルト・バイシュミット―――東ドイツだ」 
 
 
馬鹿げた答えで。 
ローデリヒの深いため息が静かに、どんよりと落ち込んだ東欧の空に消えた。 
 
 
 
ギルベルトと、ルートヴィッヒが再会したのは、その日から半月もしないある秋の日のことだった。
 
 
 
 
 
(せかいし?そんなもんしらねーよ!www)


・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


**やさしくなんてできねーよ**


波打ち際を歩く。 
並みに足を取られないように、足跡が波の形に曲がって進んでいる。 
数歩前の足跡は、打ちつけられた波によって片方だけ消えていた。 
 
「にい、さん」 
 
後ろから声が聞こえる。 
声変りも迎えていない幼い声。 
 
ギルベルトは立ち止まって振り返った。 
西日が目にあたってひどくまぶしい。 
 
反射的に目を細めれば、機嫌が悪いのかと勘違いして年端もいかない弟が砂に足を取られながら、懸命に走ってきた。 
 
「に、さん・・・ごめんなさ、」 
 
「かまわねえよ」 
 
こういったときに親だったらどうこたえるのか。 
ギルベルトにも、弟のルートヴィッヒにも「親」という存在は物心ついたときからいなかったからわからない。 
 
つい、口調があらぶってしまう。 
怒っているわけではないのだ。 
決して。 
 
弟は目に入れても痛くないほどかわいい存在だ。 
それなのに、どうやって接すればいいのかわからなくて感情をもてあましてしまう。 
 
腐れ縁の貴族の男や、その取り巻きの少女がやるように音楽や菓子を与えていればいいのだろうか。 
 
「ごめんなさい」 
 
きっとガサツな自分は、この陶器の人形のような幼い弟を壊してしまうだろう。 
乱暴な自分が振れれば砂の城のように崩れ去ってしまう気がして。 
一歩、遠くから見守っていたはずだった。 
 
そうやってきたら、気づいたら弟は、自分の瞳に委縮するようになってしまった。 
視線におびえ、言葉に震え、「ごめんなさい」と大粒の涙をたたえる。 
 
こんなはずじゃなかったのにな、弟ができた時はだれよりも喜んで、だれよりも愛情を注ぐと誓ったのに。 
実物があまりにもひ弱で、可憐で、自分の手には負えなくて。 
 
「かまわねーよ」 
 
こぼれる言葉は 
冷たい無機質な言葉。 
 
抱きあげたい。 
優しく抱擁して、その柔らかな頬に口づけたい。 
 
思いは空回りするばかりで。 
 
 
「ほら、行くぞ」 
 
 
手をつなごうと差し出した右手は結局弟の手が触れる前に引っ込めてしまった。 
自分よりうんと短い脚をせわしなく動かして弟が一生懸命自分の足取りを追う。 
わずかに速度を落としたのを弟は気付いているのだろうか。 
 
それが精いっぱいの優しさだった。 
いまできる一番の優しさだった。




 

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1900/04/14
職業:
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自己紹介:
空知椎音です。
日記という名の萌がたり・妄想垂れ流し、アニメリアタイ実況、マンガ感想などはだいたいツイッターで垂れ流しています。
こちらは完全に小説置き場になっていますので、日常日記はほぼありません。

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