一畳ブログ

**ひとつだけでいい**


  
今年のバレンタインは日曜日。
だから、その直前の金曜日が週休２日制の高校生にとって決戦の日。

紋白高校生徒「會」長 こと香川樹も決戦の日に備えて早起きをした。

手には薄ぺらな学生鞄と弁当にチョコレート。
朝一番に登校して、取り敢えず、げた箱を開けた。

「もうこの時間にもあるのか」

上履きの上に小さくラッピングされたチョコ。
それを手にとって用意しておいた紙袋に入れた。

「油断ならんな」

そしてまた、げた箱の隅に隠れて様子をうかがっていく。

「香川君、何しているんだい？」

何度目かのチョコ回収が終わった後、ふと声をかけられる。
気配無く佇んでいたのは同級生の鈴鹿松陰だった。

「チョコ回収だ」
「回収？あそこ、香川君のじゃなくて、北見君のじゃないか」

座ったまま鈴鹿を見上げると、上からあきれたような声がかかる。
それもそうだ、香川は一番に登校して、副会長の北見明宛てのチョコをせっせと回収してたのだから。

「で、いくつになったの？」
「ななこ」
「わぁ、僕には及ばないですがなかなかの数じゃないですか。もしかしてモテる北見君に嫉妬して？」
「いや、俺は既に１０入ってたからな」

そろそろ、北見が登校する時間だ。
見つからないようにチョコレートを処分しなければならない。
香川は立ち上がると数度ズボンの裾をはらった。

「じゃあ何故です？」

鈴鹿が不思議そうに、立ち去る香川の背中に疑問を投げた。

「あいつへのチョコは俺のだけで充分だ」

ぐしゃり、チョコの詰まった紙袋を両手でつぶすと、香川は廊下におかれた蓋付きのゴミ箱の奥の奥に力任せに押し込んだ。