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しあわせ(擬似)家族計画 vol.4(だてまご+ガラシャ)

ガラシャ16歳
伊達くん20歳
孫市**歳

の設定です。


本当は、嗚呼、(略)お兄さま!からのつづきネタなのですが
先に書き上がっちゃったから(てへぺろ

ガラシャの回想がメインですが伊達孫です。



続きで本文






幸せとは何だろうかと孫市はふと考える。

5年前の冬の日に政宗を、4年半前の夏にガラシャを引き取って男手一つで育て上げた。
まだ赤いランドセルを背負っていた少女は濃紺のセーラーを纏う女子高生へとこの春変身し、口だけは達者だった悪ガキは共に酒を飲み交わす間柄になった。
孫市の20代は二人の子供の成長と共に過ぎ行き、気付けば嫁をもらい損ねたと笑われる歳になってしまった。

大学と高校。
元から手にかからないほど優秀で大人びた子供たちは孫市が充分に構ってやる前にするりと手の中から離れていった。

『お前は幸せか?』

上司であり雇用主であり盟友で且つ親友の男に問いかける。
政宗と同じ年頃の血の繋がらない息子を育てる秀吉は『幸せだがや、わしもねねもあいつらも無病息災。こんな嬉しいことにゃあよ』と孫市に笑いかけた。
無邪気に一点の曇りもなく自慢気に家族のことを語る秀吉を僅かに羨む気持ちはある。
だけれども自身の幸せなんて思い付かない。
二人を引き取ったことを後悔はしたことなんてないけれど、あのとき、まだ政宗もガラシャも小さかった頃にいろんなとこに連れていってやれば良かったなんて、そんな勝手なこと手のかからない子供が本当に孫市の必要を欲しなくなってから思っても遅いけれど。

「幸せってなんだよ」

二人の子供たちがいない広くて静かな部屋に孫市の独り言が響き渡っていた。




**しあわせ(擬似)家族計画 vol.4**




「しあわせ?」

まるで宝石のように美しい深緑色の瞳をまっすぐに向けてガラシャは小さく首をかしげた。

土曜日の昼。
政宗は出かけると朝早くに出たきりで、家にはガラシャと孫市の二人きり。
昼食にと心の中のもやもやを表したような少し焦げてしまったホットケーキを頬張る。

「わらわは孫や政宗と一緒で幸せじゃ」
「マジ?あんとき意地になって明智の家からお前を引き取って来てさ、それなのにあんま構ってやれなくて今さら本当これでよかったのかななんて…」

1cm程までに膨らんだホットケーキにぶすりぶすりとフォークを突き刺し小さな穴を開けながら無精髭の口許を尖らせて孫市が湿った声をあげれば、真ん丸の瞳をガラシャは見開いて項垂れる養父を見つめた。

ガラシャも政宗も孫市の血縁ではない。
雑賀、伊達、明智と表札には3つの名字が並んでいる。
二人とも裕福な実家の窮屈さを嫌がって自ら飛び出して孫市の元に身を寄せていた。
家出なんてそれは我慢弱いだけの子どもの我が儘だと言うのに孫市は勝手に責任ばかり感じてしまって。
適当そうに見えて繊細な男の弱々しい肩にガラシャはそっと優しく目を細めた。

「馬鹿め」
「ば、馬鹿ってなんだよ。政宗みたいな事言って…俺は真面目なんだぜ?」
「だから孫は馬鹿なのじゃ」

ガラシャの真っ白い手のひらに握られた銀のフォークが、孫市の目の前におかれた皿の上から最後の一口のホットケーキを掬いとる。
淡い桃色に染まった唇にホットケーキが吸い込まれていく様子を「あっ」と小さな声をあげながら見届ける孫市にガラシャはそっと笑いかけて手元の紅茶を飲み干した。

「わらわや政宗の我が儘っぷりを知らぬのか?」
「お前らは手がかかんなかっただろうがよ。だから無理させてたんじゃねえかって。家事だってお前ら任せだったし」
「ふふふ…」

もう空になった皿の上をかき混ぜるように動くフォークにどちらが年上かなんて解らなくなって思わずガラシャは込み上げる笑いを堪えることができない。
確かに孫市に引き取られてから実家ではしたことのない家事をやることになり何枚も皿を割り怪我をして、兄のような政宗に怒られたこともあった。
明智の実家にいればそんなことやらずともよかったけれども、ガラシャは孫市と政宗と過ごした生活を送れて幸せだと思う。
一人の部屋で遅くまで帰らぬ父を待ち、多くの使用人に囲まれ一人でとる夕飯より、質素かもしれないけれど政宗と喋りながら笑いながら取る夕飯や、どこに出かけるでもなく三人で過ごす何もない休日が、喧嘩ばかりの毎日が楽しかった。


*


『政宗は孫のところに来て後悔しておるか?』

いつか茜射す夕焼け道を政宗と手を繋いで帰った時にガラシャも同じようなことを問い掛けたことがある。
孫市に不満があるわけではなく、血の繋がらない妹分のために学校帰りに毎日学童保育に迎えに来る政宗に申し訳なくなって問うただけだったのだが。

『貴様は後悔しておるのか』
『してないのじゃ』
『わしもじゃ。あやつは勝手に連れてきたと思ってるようだが違う…わしらが勝手に孫市の側を離れんだけじゃ』

夕日に照らされて見上げる表情はよく見えなかったけれど普段の仏頂面が消えて柔らかな笑みを浮かべた政宗をまだガラシャは覚えている。
ガラシャをふと見つめた柔らかな濃緑の瞳の優しさの向こうに孫市の姿が見えたことを。

『わしらは孫市に拾われて幸せなのよ…血は繋がってなくとも我らは家族じゃ』

オレンジの学帽を撫でる手のひらの力強さと優しさに目を細めた。

*

それから5年。
今もまだ自責の念にかられる孫市が少しかわいそうな気もする。
自分は何もしてやれなかったと嘆く姿を外出中の兄に見せてやりたい。
きっとガラシャ同様馬鹿だと一蹴するだろう。

「馬鹿め、孫は自惚れすぎじゃ」
「またバカかよ、」
「馬鹿に馬鹿と言うて何が悪いかの」
「っち…政宗に似てきやがって」

背筋を反らせながらガラシャは笑う。
似てきたのではない、似せたのだ。
鈍感で優しい孫市を簡単に挑発するために。

「もう4年兄妹じゃ、似ぬ方が可笑しいではないか」
「だけどよ、何で政宗なんだよ」
「なんじゃ、孫はわらわが真似て欲しかったのか?」

空のカップに紅茶を注ぐ。
政宗と兄妹であるように振る舞うのには意味がある。
仲のよい兄妹わ演じるため、そして自分に向けられる好意に鈍感な孫市だけに向けられた家族愛を越えた思いを届けるために。


*

政宗が孫市に対して憧憬や親子の情以外のものを感じているのは幼いガラシャにも解っていた。
険しい顔ばかりの政宗が孫市の事を話すときは優しく笑うからだ。

「孫とわらわどっちが大切か?」

手を繋いで歩いた帰宅道に見上げて問いたのはいつの事だろう。
「二人とも大切じゃ」と呟いた後「今は、な」と苦しそうな声で吐き出したのを忘れない。

「今は孫市は養父、主は妹…二人とも家族として同じに大事じゃ……だがな、わしが二十歳、あと4年したら孫市を伴侶にする……そこからはガラシャは二番だ」
「はんりょ?」

幼いガラシャには政宗の言う言葉の意味が解らなかった。
それでも少しはにかみながら笑う兄の姿にそれはとても素敵なことだと言うことくらいは察することができた。

「孫をはんりょにするとわらわはいらぬのか?」
「そんなことはない。ガラシャは変わらぬ。わしらも…みんな今のままじゃ、きっと」
「孫と政宗と一緒ならよいぞ!わらわは二番目で充分じゃ!」

屈託のない笑顔を見せれば、安心したように政宗の表情も柔らかくなる。
細かいことはわからないけれど、兄が幸せというのならきっと本当に幸せで素敵なことなのだろう。

「何故4年後なのじゃ?」

そんな素敵なことなら今にでもすればいいのに。
幼い無邪気な疑問に白い眼帯をつけた隻眼が寂しそうに細められ、頭を撫でる手のひらに力がこもる。

「大人にならねばいかんのじゃ」
「政宗は大人っぽいと孫も言うておるのに駄目なのか?」
「あぁ」





駄目じゃ。




*

そう溢した政宗の瞳を今も思い出せる。
あれから4年がたって「伴侶」という言葉も、世間の常識も、簡単な法律も解るようになった。
そして、政宗が何故あんな悲しそうな顔をしたのかも。

「わらわは政宗の味方じゃ!」

空になった皿を運んで背中を向けた孫市に告げる。
手を引かれて歩いていた少女はもうセーラー服を纏う女子高生になった。
家族のいざこざから逃げ出してきた少年は自分の未来を描ける大人になった。
もう、孫市に守られずともじぶんの幸せは掴めるのだ。

だから――
(次は孫の番じゃ)

皿を食洗機に並べてスタートボタンを押した。
「ただいま」と甘く心地よい声が玄関から聞こえてくる。

「孫ぉ、政宗の帰りじゃ!はようでむかえぇい!」

いまだダイニングテーブルでため息をつく孫市を急かして玄関に向かわせる。
しあわせまであともう少し。
「はいはい」と気だるそうに向かう背中にガラシャは満面の笑みを向けていた。



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