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サ行恋愛変格活用 no.1(ゆきさこ現パロ)

せんむそ現パロ3シリーズ目です。

高校1年生幸村×国語教師左近。


やたら若さ故の何とかで押せ押せの幸村です。


これはせんむその必要があったのかという感じなんですが、多分



ない



んだろう。




でも、
やりたかったんだ。

馬鹿だけどいちづで、恋愛には頭が回る少年をうっとおしく思いつつ拒絶できないおっさんとか萌える
ほだされてる左近を見て2424する殿とイカとか萌える




続きで本文







「今からテスト返すからなー。一桁のやつは補講だ」

古文教師の左近が授業開始直後に気だるそうな雰囲気を纏い教壇の上からそう告げる。
先日行われた中間テストの返却である。
番号順に返されるテストに生徒たちは一喜一憂していた。

「真田、真田幸村ぁ」
「はいっ」

元気よく返答する幸村とは反対に答案用紙を手渡す左近の表情は暗い。
「後で国語準備室だ」と眼鏡の奥の眉間に皺を寄せて告げた左近はハイっと変わらぬ明るさを持って返事をした幸村に深い溜め息をついてまた次の名前を呼んだ。





**サ行恋愛変格活用 no.1**





「9点?」

「平均点が60点のテストだぜ、幸村」

まだ続くテスト返却の中、前の席の清正と左隣の政宗が怪訝そうな顔をしてどこか少し嬉しそうな幸村を見つめる。
辛くも平均点を越えた清正と、学年上位の政宗は赤点だと言うのに少しも危機感を持たない幸村の神経が理解できない。

「また赤点とは情けなくないのですか、幸村」
「義姉上まで手厳しいですね」
「本多も言ってやれよ…これで3回連続9点で補講とか馬鹿だろ。それなのに模試だと政宗に並ぶ点とれるんだぜ?」

右隣の稲姫まで戻れば幸村の周りは騒がしくなり、各自自習でテスト直しと言われた教室の中でも落ち着きがない。
成績優秀者に名を連ねる政宗と稲姫は直ぐに間違い部分を直すことができたが、約半分間違いの清正、赤点の幸村はなかなか進まない。

「模試は……マーク式ですので」
「簡単かぁ?俺はさっぱりだぜ」
「まさか補講受けるがための赤点など馬鹿な事を考えてなど……おい清正、そこはレ点ではない」
「あぁ、だからか……って幸村だってそんな」

まさか、と言われて政宗が溢した言葉に幸村は肩を震わせる。

『古文の島先生は必ずテスト一桁が補講だからいくらスポーツ推薦だからといって引っ掛かることはないだろう』
『うむ、生徒会役員が赤点常習とは情けないぞ幸村!』

生徒会の先輩二人の言葉が頭の中を反芻する。
情けないと叱咤する直江兼続の言葉より、どこか幸村の心うちを読んだようにニヤリと笑みを浮かべた石田三成の言葉がすうっと体の中に吸い込まれていった。

(ひとけたなら、さこんせんせいと、ほこうできる)

プライドとか進級可否とか親の叱咤とか友人の白けた瞳とかそんなことは小さなものだった。
憧れの、大好きなひとと一緒。
公然と二人きりになれる場所なんてこれしか見つからない。
生徒会副会長からすれば不義であるかもしれない。
だけれども、15歳の少年に初めて訪れた淡い思いはどうやっても止めることはできそうになかった。



*


さて、目の前には古文の教科書を開いて座る左近がいる。
長机を挟んで向かい、西日射す国語準備室の窓際に長い黒髪を束ねて渋い顔をする左近が幸村をじっと見つめていた。

「真田」
「はい」

ふと名前を呼ばれて幸村は補講用のプリントから顔を上げる。
本当ならずっとこの至近距離の左近を眺めていたかったがそうもいかない。
吐息や衣擦れの音が感じられるこの距離で補講を受けることができることだけで十分だって思わなきゃいけないだろう。

顔をあげれば、もう中年と呼ばれるような歳を迎えるだろう左近の歳には似つかわない艶やかな黒髪が見えた。
髪留めで結ばれた長髪の向こうに白いうなじが見えて息を飲む。

「ちょっと…」
「はいッ」
「三番の活用もう一回、」

名前を呼ばれたのはこのためか。
何か別のおかしな期待を持って左近を見つめた幸村はその節くれだった指がプリントの設問を指したことに僅かに落胆した。

(そうだ補講であったのだ)

プリントに適当に書いた選択肢を消ゴムで消して設問を眺めれば直ぐに答えがわかる。

それもそのはずだ。
幸村の古文の成績は悪くはない。
ただ左近と近づきたいがための赤点である。
どうすれば、どうとれば赤点になるのかそこまで考え尽くされているか何て誰も知らないだろう。
満点に近い点をとって左近に気に入られることなんて思い付かないでいた。
ただ単純にその場の空気を共にしたい。
幼い願いばかりが幸村を埋めていく。

問1 ア
消ゴムを消した空欄に正解を書いた。
それから他の余った解答欄の2から5に続けて片仮名を埋めていく。
さらさらと、流れるように。

「先生…左近先生」

ひとしきり書き終えてシャープペンを置いた幸村は窓の外の藍色と橙のグラデーションに色付く空をぼんやりと眺める左近の名前を呼んだ。
長い黒髪が時折風に揺れて青みがかった艶を映す。
憂いを帯びた瞳、サインペンとチョークで汚れた指先。眉間に刻まれた皺。
普段は学校の共有物である教師であるが、今はこの部屋にいる幸村ただ一人のもののように思えて気持ちが高ぶってぶるっと背筋を震わせた。

「ん?」

名前を呼ぶ声に振り替える左近は疲労に浮腫んだ瞼を眠たそうに腫らせて幸村を見つめる。
テストの採点で寝ていないのだろうか。何か疲れるようなことがあったのだろうか。
自分の補習がその一端を握っているだろうことは棚にあげて心配そうに左近を見つめれば。
「できたのかい…どれどれ」とわら半紙のざらついたプリントを引き寄せた。

「問1ア、正解…次、イ、正解…できるじゃないか、幸村…」
「補習の成果です」
「もっと真面目にやるんだな…」

サインペンが円を描く音が聞こえる。
僅かに、ほんの小さなことなのに左近に誉められれば幸村の表情はぱあっと華やいでいく。

「精進いたします」
「その意気だな…………ってシ?テ?」

まだ幼い少年から青年へと変わる間の笑顔に左近の疲れきった顔も僅かに緩んだ。
やればできる子なのではないか、と左近が思った瞬間に現れた文字に柔らかな表情は段々と曇っていって。

「選択肢はアからオだ、幸村」
「承知しています」
「なら」
「もう一度読んで頂ければ」

眉間に指を置いてため息をつく左近に幸村は更に回答用紙を近づける。
もうやる気も無くしたのか机に肘をついて解答欄に書かれた片仮名を追った。

問1ア
問2イ
問3シ
問4テ
問5ル




「ふざけるのもいい加減にしてくれないかねぇ…幸村」

稚拙な言葉遊び。
及第点をかけた補講に、真面目な生徒会役員の彼に似つかわしくないふざけた行いに左近は溜め息をつかずにはいられない。

「こんな冗談」
「冗談や酔狂ではありませぬ」
「じゃあ、何でこんな…テストなんだぞ」


「それは」

それは、あなたがすきだから。
言葉には乗せずに幸村はテーブルの向こうで渋い顔でプリントを睨んでいる左近の顎を指で掬った。

錆び付いた金属の脚がぎしりと幸村の体重に軋む。
橙から赤へと変わる夕日の眩しさに瞼を閉じて驚き目を見開いて固まる左近にそっと口付けを施した。



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