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午前10時14分発(豪鬼FDL)

 10/14

豪鬼の日!


ということで。




ようやく
フリリク豪鬼消化でございます。





目指すは少女漫画(ないしBL漫画)風!

うwwわwww
これはwww
つらいwww

というのを目標に頑張りm(ry






続きは本文



 







「明日、10時14分発の電車で行くから」






電話越しに言葉を紡いだ。
「見送りに来なくて良い、明日も練習だろ?」
無言の相手の表情が見えなくて、でもそれだけ口にして電話を切った。

直接言えばよかった。
もう、めったに会えなくなるというのに。

なぜ会いに行かなかったのか。
昨日の自分をせめても何も出てこない。



木枯らしが吹き抜けるホームには、誰もいなかった。







**午前10時14分発**




「本当にここまででいいのか?」
「ああ、ここまで見送りに来てくれるとは思ってなかった。充分だ円堂」

ありがとう、と駅の改札前に集まったチームメイトに豪炎寺は微笑んだ。
まだ冬には早いというのに、今日の最高気温は12月並みの低温で、厚手のジャケットの襟を立てて、豪炎寺は寒さを耐えていた。
見送りに来た円堂たちは、これから練習があるため、揃いの青いジャージに身を包んでいる。

「そっか、向こう行ってもサッカー続けるんだろ?」
「もちろんだ」

豪炎寺の脇には大きなキャリーケース。
熱い青春を過ごしたイナズマ町を豪炎寺はあとにして、海外へと飛び立つ。
中学に年から引っ越してきたこの街は、ふるさとのように思い出に溢れていて、友情や青春がいっぱい詰まっていた。

「じゃあ、次にあったとき、本気で勝負しようぜ!さらにスッゲー必殺技身につけて、お前のこと待ってるからな!」
「ああ、俺も、手も足も出ない用なシュートを覚えてくる、絶対に」

握りしめた拳を合わせる。
豪炎寺より高い円堂の熱が伝わって、お互いに目を見つめ合いながら笑った。

「そういえば、鬼道まだ来てないんだよなー」

出会った頃から数年たって、体つきも大人になったというのに、唇を尖らせて拗ねたようになる円堂の表情はいつまでも変わらない。
であってから今の今までお互いにしのぎを削り合い過ごしてきた鬼道が個々の場所にいないのが彼には不満のようだった。

「鬼道には・・・」

豪炎寺の眉間に薄いシワが寄った。
若干言葉がつまり、声が震えたことも、誰にも気づかれていないようだ。

「・・・昨日、予めあいさつしたんだ。あいつも忙しい身だからな」
「鬼道家を継ぐって決めて、大変なんだろうな」

昨日鬼道にサヨナラの言葉を告げたのは確かだった。

養子で迎えられた鬼道家を継ぐと決めて数ヶ月、鬼道とはろくに顔をあわせてはいなかった。
外国への旅立ちで忙しい豪炎寺と経営学や何やらで忙しい鬼道とは、電話の時間も夜遅くの数十分しか取れなくて、だんだんと疎遠になってしまうような気がした。

だから昨日も、豪炎寺から一方的に要件を伝えて、鬼道の返事もまたずに電話を切った。
続く言葉も聞きたくなかった。
「会えないなら分かれるしかあるまい。向こうでも頑張るんだな、豪炎寺」
そんなふうに言われたら、と思うと、言葉が発せられる前に通話を切るしか豪炎寺にはどうすることもできなかったのだ。



「仕方ない、また・・・・会えるさ」

まだ残念そうに唇を尖らせている円堂に、眉をハの字にして苦笑いしてみせると最後に大きく見送りに来たチームメイトに手をふった。

改札を通した切符には10:00と赤く印字されていた。
ここから離れるまで、あと15分を切った。


「ちゃんと、会って言えばよかった」

こぼれ落ちた言葉は風の吹き抜けた誰もいないホームから今の豪炎寺の心の中を表現しているようなどんよりと重い雲が浮かぶ空へと飛ばされていった。


****


「この列車は特急の通過のため3分少々停車します」

風の通り道となって、実際の気温よりもひどく寒くなっていた。
予定時間よりも数分早くに到着した車内は、暖房がかけられていたせいかジャケットを着ていると汗ばむほどに暑かった。
ホームにはだれもいないというのに車内は混んでいる。
空いている席を見つけるのも億劫で豪炎寺は出入口の通路で立ち止まった。
外部からの冷えた風が中の暖かい空気と混じり合い心地いい。

隣のレールを特急列車が過ぎていったのかガタガタと停車中の電車が揺れた。

時計をみれば秒針があと一周すれば、目の前のドアがしまってしまうことがわかった。


「ちゃんと会って言えばよかったな」


誰にも伝わらないため息と共に小さく本絵をこぼした。

だんだんと小さくなる通過列車の音。
澄み切った秋の空気に響き渡る警笛。
どこか機械的なアナウンス。

さよなら、
さよなら、

心のなかで呟いた。
会えない人に、呟いた。







「・・・・・なにを、言うんだっ・・・豪炎寺!」


プシュうと空気が抜ける音がしてドアが閉まった。
逃げられない冷気が一気に暖房で火照った豪炎寺の頬を冷ます。

その肌をさすような凍えた空気にハッとして豪炎寺は顔を上げた。
聞こえないはずの声、届かないはずの言葉だったはずなのに、ドアの閉まる音に合わせて、息を切らせたような苦しそうな言葉が帰ってきた。

真っ赤な瞳がまっすぐに豪炎寺を見つめる。
走ってきたのだろう。
陶磁器のように白い肌が少し赤みを帯びていた。

「き、どう?」
「もう顔も忘れたのか」

鋭い瞳が豪炎寺を捉えた。

忘れるはずがない。
会えなくても脳裏に焼き付いている、あたりまえだろう。と反論したくても口が思うように動かなくて、数度激しく首を横にふった。

「こなくてもいいって、いっただろう」
「来ないで欲しかったのか?」
「まさか、嬉しい・・・・だが、電車が」

きっとこないと思っていた。
来て欲しいとは思っていたが、噂に聞く忙殺っぷりに諦めかけていたから。

「本当はもっと早くに着たかったんだがな。なかなか準備ができなくてこんな時間になってしまった」
「準備?」

見送りに来るだけなのに準備など必要ないだろう、と豪炎寺は首を傾げる。
これから円堂たちと練習があるというのに私服のまま見送りに来た鬼道はさぞ忙しいのだろうかと、電車に乗ってしまったあとに思うがもう遅い。
各駅停車といえど次の駅までは10分以上かかる。
折り返しの電車を待っていればイナズマ町に戻るまでに30分以上立つ計算になるのだから。

ふと何かを考えこむように足元を見やれば自分のものの他に大きな荷物が写った。

「これ」
「ああ、これに積めるのも案外時間が入ってな。一番時間がかかったのはこれだ」
「パスポート?」

真っ赤の表紙の冊子をジャケットの内ポケットから取り出してみせた鬼道は照れたように中を見せた。

「遠征の時に作ったじゃないか。FFIのころのは切れてしまっていて、急いで学校帰りに写真をとって。あの時のままだから写真が古いのが恥ずかしいがな」

白黒のインスタント写真の鬼道は、今よりも若干丸みを帯びた幼い顔立ちだった。高校の制服の詰襟が、時代の流れを表していてひどく懐かしかった。

「なんでパスポートなんだ?」

見送りに来るならば、そんな大きな荷物も、パスポートもいらないだろう?
そう伝えたくて訪ねてみれば、鬼道は真っ赤な瞳を見開いて、え?と小さく声を漏らした。

「・・・・豪炎寺、きさまはどこに行くんだ?」
「ドイツと伝えただろう?」
「・・・・・きさま、これだけ揃えてもまだわからないのか!」

この唐変木め!
鬼道が豪炎寺の胸ぐらを捕まえておこったような拗ねたような高い声で怒鳴りつける。
この数年間で中学校の頃よりも身長差は開いてしまった。
そのため、胸ぐらを掴み上げる、というかは鬼道の顔の近くまで引っ張り下げる、という方があっているのだけれど。

「???」

これだけ怒鳴って見せても。
時間いっぱいになるまで準備をして使わないパスポートを持って、豪炎寺の乗るはずの電車に走ってきたというのに。
豪炎寺の頭の上にははてなマークが飛んでいて。
鬼道は怒りというよりため息しか出なかった。

そうだ、こんな男だった。
最近滅多に顔を合わせることが少なくなってきて忘れていたが、豪炎寺は鈍いにもほどがあるようなそんな男だったのを失念していたのだ。
サッカーには鋭いセンスを持っていようとも恋愛については経験値ゼロ。
駆け引きなんて試合の中だけしか発揮できないような男だったのだ。
「ドイツに行くからお前も付いて来い!オレのそばにいろ!」なんてそんな台詞が出るわけもなくただ「行ってくる」の一言だけで終わらせてしまうような男なのだ。
圧倒的に言葉が少ない、それは中学生の頃から知っていたはずだったのに。

「・・・・・豪炎寺、」
「なんだ?」

うつむいてつかんだ胸ぐらに力を込めた。
こんなセリフ恥ずかしくって真顔で言えるわけがない。

鬼道もどこかで期待していた。
早々に海外へと行くという噂の流れた豪炎寺に「お前も来い!」と言われることを期待していた。でも鬼道家の長男としての立場に忙殺されていた自分などもう必要ないと言われるのが怖くて、言い出せなかった。



「豪炎寺についていっても構わないか?」




この言葉が。
忙しいのは自分ばかりなのに、かまってもらえないと泣きそうな夜が鬼道を押しつぶしそうになって、なんども苦しくなった。
それでも、会えなくても夜中に掛かってくる短い電話が、それだけが鬼道の癒しであり、人間へと帰れる場所だった。
「明日、10時14分発の電車で行くから」
その言葉がなかったら。この言葉があったから、鬼道はこっそりとカバンにいっぱい荷物を詰めてパスポートを片手に家を飛び出たのだ。

10時14分が二人をつないでくれる気がして。
走って電車に飛び乗ったのだ。

「鬼道、家は?」
「書置きは残してきた。俺ひとりがいないだけで崩壊するような鬼道家ではない!」
「そう、か」

豪炎寺の唇からほっとやわらかない気が漏れた。
肩の力がようやく抜けたようだ。

「鬼道」
「なんだ?」
「ありがとう」

見上げた鬼道の赤い瞳をまっすぐ見返す。
頭半分小さな鬼道の背中に腕を伸ばして力を込めれば、彼の体は豪炎寺の中にすっぽりと収まった。

「ありがとう、来てくれて」
「ああ、」
「ありがとう、俺と一緒に歩く道を選んでくれて」
「そんなこと」

他愛ないことだ。
言おうとした唇は豪炎寺の薄く大きな唇に蓋をされてしまったまま絡まった舌の上で雨のように溶けた。

「鬼道」

ゆっくりと唇が離れた。
吐息混じりに名前を呼ばれて鬼道の頬が首筋からずっと朱に染まった。



「俺と一緒に、ドイツで生きてくれるか?ずっと、これからも」



豪炎寺の後ろの窓から光が差し込んで、色素の薄い銀糸はキラキラと光った。
あんなにも空を押しつぶしていた雲はいつの間にか消えて、どこまでも高く伸びる青空が窓の向こうに広がっていた。

「あたりまえだろう、」

鬼道がうれしそうに唇に弧を描いた。

10時30分。

隣駅に付いたのか、豪炎寺の後ろのドアが空いた。
あんなにも刺すような寒さをもたらした風も雲と一緒に消えてしまったようだ。
暖かい光のなかで、二人はもう一度そっとくちづけを交わした。

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空知椎音です。
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